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好きな作品を流れのままに綴ります。 二次・オリジナルのお話です。よろしくお願いします。まずは【はじめに】からお入り下さい。

風の行方 28 執着と愛

2014-08-27 Wed 00:30

28【執着と愛】

その夜、明け方にようやくわずかながら眠りについたつくし。

つくしは、目覚めて周囲を見渡した。
見慣れた家具や壁にかけていた服もそこにはない。8畳は、あるだろ部屋に寝たのだと言う現実があった。
枕元に置いた腕時計を取ると、時刻を確認する。眠れないと思ったが、3時か4時に眠りについたように思う。今の時刻が6時。2時間か3時間は寝たらしい。
幸い寝起きは、すっきりしていて眠さはない。夕べ寝る前に、歯ブラシやタオルを渡されたが、残念なことに女性用のアメニティは渡されなかったここには、常備されていないのだと受け止める。

着のみ着のままで、電車に乗り来たせいで、荷物は何もない。昨夜は、部屋に用意されている浴衣を着て寝たが、起きて着る服は昨日のままだ。
だから、上着は部屋に備え付けのハンガーにかけたままにして、スカートとシャツを着た。夏でなくてよかった。汗臭さは感じられずに済んだ。

洗面所で、顔を洗い歯を磨くと、つくしは昨日覚えた炊事場に向かった。
既に炊事場で働く姿があった。
「おはよう!
眠れたかい?」
笑顔で元気のいい声がつくしを迎えた。
「おはようございます。少し寝付けませんでしたけど、何とか寝ました。
ありがとうございます。」

「そうかい。若いお嬢さんが、出産場面に出くわせば、確かに眠れなくなるよね。すまなかったね。」
「い・いえ。すごく感動しました。」
「そうかい。まあ、確かに感動するよね。この世に一つの命が産み落とされる場面だもの。」
「はい」
昨晩を思いだし、感慨深い表情を互いにしていた。

「昨日は、本当に手伝ってもらって、ありがとう。」
妊婦の義母は、つくしに深々と頭を下げて礼を言う。
「いいえ。あたしも、あんな風に心待ちにされて生まれて来たんだなって。温かい気持ちになれました。」
つくしも頭を下げていた。

この後、その人が家族構成と、この旅館の一通りの内容をつくしに教えてくれた。
妊婦は想像通り息子のお嫁さんで、若女将であること。従業員は全部で2人。60歳少し前の男性と近くに住まいがあるパートの女性だけ。
夕べ会話に出ていた従業員の「ときさん」は、もう30年も、ここで住み込みで働いていたが、家庭の事情で泣く泣く辞めたのだと話してくれた。

そして、大女将である目の前の人に名は「湯浅リン」周りから、大女将ではなく、リンさんと呼ばれているそうで、つくしにもそう呼んでいいと話した。勿論、つくしも名前を告げた。

「それにしても、こんな辺ぴな観光もない場所に来たのは、なにか?・・・・・
ううん。
なんでもないさ。
でも、仕事は良いのかい?」
来た理由を一瞬口にしたが、言葉を濁し、追求するのをやめてくれた。
「無職です。
ぶらり旅の行き当たりバッタリ・・・着いたのがここでした。」
つくしもまた、それを受け入れ、さらりと返した。

「それなら、しばらく仕事を手伝ってくれないかね?」
「良いんですか?」

「嫁さんは、予定より早く子供を産むようになって、旅館を手伝えるのは当分無理だし。幾ら小さい旅館といっても、2人の従業員とあたしじゃ大変だからさ。
募集しなくちゃいけないと思っていたところなんだ。」
「はい。宜しくお願いします。」

「じゃあ、早速朝ごはんの用意一緒に頼むね。」
「はい。」

想いもよらない事態。
捨てる神あれば拾う神あり。そんなことわざを想い出して、リンさんと並んで朝食の準備にかかったつくし。

その頃、類はつくしの所在がわからないことに焦りを感じていた。

つくしの上司から聞いた話では、司が迎えに来た事情を受け入れられていなかったと聞かされた。
しかし、辞令が出た今、承諾できなければ解雇となる。

司とは、すれ違いになったが、待っても現れないつくしを社内中探させたらしい。そして、その表情は激怒の様子が伺えたと話してくれた。
確かにそうかもしれないと、自分の携帯を開いて納得する。その相手からの数えきれない着信歴が表示されていた。

「俺と居ると思ってるんだな。」

類は、つくしの会社を出た後、アパートへ寄った。そこで、目にしたのはSPかと疑うスーツ姿の男性2人。中に入るのを
諦め大学へ行く。
『牧野がどこにも見当たらないから、SPをあそこで待機させているんだろう。』そう納得した。

つくしが通う大学へ行くと、幸いそこへは司の部下らしき人物は、誰も来てはいない様子だった。
そして、大学関係者につくしからの連絡の有無を尋ねたが、個人情報は教えられないと断られ、仕方なく学部に足を運び友に訪ねるが「来てません。」答えはそれだった。
だから、今はそれしかわからない状況だった。つくしの携帯は、連絡が入れられない。電源を切ったのか切れたのか繋がらない。
会えないと思うだけで胸が痛かった。

知ってしまった肌の温もり。通い合えた心。「抱きしめたい。」そう思わずにはいられない。
重い足取りで私邸に戻ると、想像通り、ロールスロイスが眼に止まる。

「来てるんだ。」
エントランスに入ると、松尾が直ぐに重い表情で類を見た。
「解ってるよ。心配しないで。」
言葉を掛けて、応接室のドアノブに手を掛け、溜息ひとつ落として中に入った。すると、そこには深々とソファーに座った絶縁されたはずの相手がいた。

「何か用?」
「会うなりそれか?」
自分で言った言葉を忘れたかのように言う司。
「フッ。だって、俺になんて会いたくないんじゃないの?」
「ああ。会いたくないさ。
だが、会わない訳にはいかなくなった。」

「どんなことが理由?」
「白を切る気か?」
何も知らない振りで答える類。
「白を切るも切らないも、意味がわからなければ答えようがない。」
「相変わらず、ひょうひょうとかわすのが上手いもんだ。」

「悪いけど、帰ったばかりでね。着替えがしたいんだ。時間をくれる?」
「俺様は、あいにく待った時間もホントは惜しいくらいに忙しいんだ。類の、のん気な着替えに付き合う時間はない。」

「じゃあ、早く言いなよ。」
「ああ。じゃあ、はっきり聞く。
牧野をどこに行かせた。」
類を更に凝視して尋ねる司。
「牧野をどこに行かせた?
いきなり意味がわからない。行かせるも何も、その意味すら、話しもしないで、聞くのがお角違い。
あいにく俺は、牧野の事を知りたくても、今日は会っていないし声も聞いていない。勿論メールもね。」
類が今度は、司に真っ直ぐ視線を合わせ言う。
「なら今までどこにいた。」
「本屋にカフェ。
本屋は大好きでね。時間を忘れるんだ。どれを読もうかって!
それがイケない?」

「それで?買えたのか?」
疑わしそうに見る司に類は答える。
「ホラこれだよ。新刊。今日発売の本。
司!何なら読む?あげるよ。」
不意に気が廻り、帰り際に書店に寄って、内容も見ずに本日発売の文字の本を2冊買い込んで来た。

「フゥ~ン。
今日の所は信じるが、言っておいた様に諦めないから。
それにあいつは、まだ大学生。それに未練があるだろう。きっと見つかる。
その、のん気な面に汗が出るのも、そう遠くじゃない。」
言うだけ言うと立ち上がった。

「じゃあな!」
ドアに向かい歩き出す司。
「司!」
「ハァ?」
その背中に類が声をかけた。
「どうして執着するんだ?」
「惚れてるからに決まってる。」
司は、振り向かずに答える。
「ならどうして、これまで手を差し出してやらなかった?」
「してたさ。俺なりに。」

「それは金銭的な援助をしようとしただけじゃない。」
その問いに、司が向きを変える。
「何が言いたい。」

「あいつが弱音を吐かないことは、司が一番知ってたはず。
大学のこと。家のこと。何より実物の司に居て欲しかったんじゃないの?」
対峙する二人。

「俺だって、NYで2人の為に!」
「2人の為って言えば、ないがしろにして良い訳?
2人の為がストッパーになって、我慢させてるって気が付かない恋人なんて意味ないよ。」
声が次第に荒くなる。
「類!幾ら何でも!!」
「言い過ぎ?
ううん。言い足りない。まだ高校生だった。まだ、大学にも社会にも出たばかり。
だってまだ未青年。周りは着飾って、デートして、ランチして。
でもあいつは?」
つくしのこれまでを司に言う。
「・・・・・」
「親友の司だから、耐えてた。支えるだけでもいいって。
でも、生身の男。健気でいじらしくて、愛しくなった。
それが悪い?」
「類」

「牧野が居ないって言ったね!
教えてよ。行き先。俺の方がむしろ知りたい。先に捕まえて離さない。
俺は、司と違う。」

「どう言う意味だ?」

「牧野の為なら、この家を捨てられる。」

初めて見る類の激情。そして涙。
怒り心頭の司の方が、今では表情が落ち着きを見せていた。

「悪かった。類。
確かに言い訳にして来た。2人の為だと。でも忙しいのも事実だ。欲張り過ぎているのかも知れねえ。
あいつも仕事も。
NYに行く前の俺なら、類の言う様に家を捨てられたかも知れない。
でも、俺に圧し掛かる重さも知った今、類のようには言えねえ。
きっと、類なら仕事に就いても牧野を取るのかもな。
フッ・・・執着?
それだけは違う。
本気で惚れてるんだ。
でも、考えてみる。惚れた女が幸せになれる暮らし。」
司は視線と落とした。
「司!」

「やっぱ、お前は親友だ。
それも飛び切りの。
俺に、そんだけ言えるのは、類だけかもな。
他の2人に言われても、説得力がねえ。
やっぱり、ここに来て良かったぜ。
またな。」
「悪いけど、送らないよ。」

再び歩き出した司が、顔を類に向けて言う。
「そのヒデぇ顔、見せらんねえものな。」

最後は、通い合えた気がする会話で締めくくれた。
まだ、本気で司がつくしのことを手放すかどうかはわからない。でも、執着でないと言った言葉に偽りはない。
消えたドアをジッと見つめる類だった。


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