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好きな作品を流れのままに綴ります。 二次・オリジナルのお話です。よろしくお願いします。まずは【はじめに】からお入り下さい。

風の行方 27 眠れぬ夜

2014-08-26 Tue 00:00

27【眠れぬ夜】

自分しかいない状況で、催促された言葉に返事をして、スリッパどころではなく奥に向かい駆け出したつくし。
「早く来てぇ~!!」
「は・は~い。」

「どこですかぁ~?」
「ここ!!」

声を頼りに足を進め、廊下を通り宴会場になりそうな広間の入口が開いているのが目に飛び込む。そこから声が聞こえる。
一歩踏み入れたそこで、驚く光景が眼に飛び込んだ。
「何突っ立ってるの!宴会場の奥に洗濯場があるから、そこから大きな洗面器持ってきて、で、炊事場が、その隣だから、そこに寄って、それにお湯を入れてきて。でも、熱すぎたらダメだよ!
あっ、それとバスタオル何枚か!」
かなり切羽詰った言い方で、一度に全部詰め込まれた。
「あ・あたしがですか?」
座布団に寝かされた大きなお腹の妊婦と、その母親らしき年配の女性が目の前で、援助の手を必要としていた。
その、役割を通りすがりのつくしが背負う形になった。

「何言ってんの!他に誰がいる?
今、お産婆さんを迎えに言ってるから、来るまでに出来ることやっておくの!」
母親らしき人に、一括されたつくし。
「は・はい。」

仕方ない。今はただ、訳も解らない状況だが、やるしかないと腹をくくった。言われた通り、左右を見渡し、確認して洗濯場と風呂場に行き洗面器を持ち、バスタオルも数枚持った。それをいったん広間に置き、すぐさま炊事場に行く。そこにあるバケツに給湯器をひねり、加減を見ながらお湯を用意した。
つくしは、玄関で声をかけてから数十分の間、ひたすら、初めて尋ねた旅館の中を走り回っていた。
ようやく、言われた準備を済ませると、さっきより更に陣痛が強くなり、歯を喰いしばる状況の妊婦が目に入った。

つくしは、いつかテレビで見た出産風景を思い出した。それで、思い浮かぶままに足りなそうな物を探し、言われた物を含めて、生まれた後の準備をした。
それを間近で見ていた年配女性が言う。
「あんた手際良いね!役所の人はさすがだよ!」
「やくしょ?」
一瞬、何のことかわからず首を傾げたが、ふと自分の支度を確かめて、紺色のスーツ姿のせいで、役所の人間だと勘違いしていると納得した。
しかし、弁明している暇などない。
「ヒーヒーフーだよ!
美代ちゃん!
もう少しだ。まだ力むんじゃないよ!!」
「は・はい!!
ハアハアハアハアハアハア・・・・・」
目の前で、あともう少しで生命誕生の瞬間が訪れようとしていた。
すると、玄関で男性の大きな声が聞こえた。
「来たよぉ~!!」

少しづつ近づく足音。それと一緒に声が重なる。
「せ・先生速く歩いて下さい!」
「はいはい。でもこれくらいで、きっと丁度良いハズですよ!」

そして、声の主が広間にたどり着き、姿を現した。
若い男性と70歳くらいの白衣姿の女性。おそらくそれは、妊婦のご主人とお産婆さん。

つくしは、お産婆さんに会うのは生まれて初めて。しかも、出産に立ち会う形になりそうな気配。
妊婦の側で、腰をさすり励ましているのは、事情から考えるとお義母さんかもしれない。

お産婆さんは、慌てることなく男性が置いたカバンから道具を出して、笑顔を妊婦に向けると声を掛けた。

「良い!今苦しいのはお母さんだけじゃない。生まれて来る子も頑張ってるんだよ!
あなたが子供に最初のお手本を見せてあげなさいね!」
「は・はい。」

男性は見て居られないと部屋を出て廊下に祈る様に座り込む。
つくしは導かれる様に妊婦の手を握り声を掛けていた。

お産婆さんが妊婦に力むようにと声を掛け、力を抜くように繰り返したあと、その時は来た!

「おぎゃぁ~・・・・・」

「生まれたぁ~!!!」

つくしは、生まれたばかりの赤ちゃんを産湯につけるのを目の当たりにし、生まれたことへの歓喜と神秘で涙が溢れて見入っていた。
出産を終えた母親に異常はなく、穏やかな顔で我が子を見つめていた。

「ありがとうございました。」

深々と頭を下げる父親の姿。
側に付いていた母親は、出産を終えた娘にさ湯を用意して来た。

「のどが渇いたろ?」
「ありがとうございます。お義母さん。」

良い光景だった。


後産後も何事もなく。我が子に乳をくわえさせるように指示を受けて飲ませるのが目的ではない含むだけの母子の繋がりを迎えさせた。
涙ぐんでいる。母になった実感が湧いてくるせい。
廻りも笑みが浮かび瞳が潤んだ。


それから1時間後。
義母と呼ばれていた人とお産婆さんと3人で茶の間でお茶を飲みつつ、良かったと話しをし終えた時だった。

「いやあ!助かったよ。
息子が迎えに行って、1人でついてた時に来てくれて、天使に想えた。
気もきくし、役所辞めてうちで働かないかね?
丁度ときさんに辞められて困っていたとこだから!」
「エッ?」
「おたくさんは役所の人かい。
見覚えがないけど、いつ入った人かね?」

2人にジッと見つめられ、頭を下げた。

「弁明する間もなくて、流れのままに側にいさせてもたいました。
すみません。」
「あんた、役所の人じゃないのかい?」
「どうりで見たことがない訳だ。」

「泊めて頂こうと伺ったら、来て欲しいと奥から声がして、迷った末に行きましたら、あの状況。
あれよあれよと云う間で・・・」
「よねさんが急かしたからだ。」
「すまないことしたね!」

「いいえ。感激しています。」
「それにしても、見も知らない人に孫の誕生を手伝わせて、嫁に何て言おうかね!
ハハハハハッ!」
「ここの嫁さんは出来てるから、笑ってすむさ。」

「お客さん!になる訳だ?」
「エッ・・・は・はい。
泊めて頂けるなら・・・ですが。」

「こんなに世話になって、しかも夜じゃあ断れませんよ。」
「ありがとうございます。」

「ただし、今夜はこう云う事情だからセルフでだけど、良いかい?」
「はい!!」
「良かったね。」


この夜、つくしが夕飯を用意した。それで宿泊代はタダ。

旅館の部屋に独り。
不安で悲しいハズの夜なのに、感動で興奮して寝付けないつくしだった。



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