2011-03-04 Fri 00:04
7【踏み止まっても・・・】
いつの間にか包まっていた布団の中。そこから思考を張り巡らす。 牧野へ カギを掛けて出るからドアポストを確認しろ! 足は大丈夫か? 俺のアドレスを教える。その具合を、ひと言で良いから連絡入れよ。 また飲もう。 それにしても、俺だから良いけど他の奴なら襲われちまうぞ。もっと用心しろよ。 じぁあな! 総二郎 書き置きを残して去って行った。 それから1時間後の6時に時計が鳴って、つくしがようやく眼を覚ます。 「ん~・・・アッ! 服を着たままだ・・・そうだった。西門さんとここに来て足に湿布を!」 自分の足首を見るとその証拠がそこにある。しかし、痛みはまだ残っているし肌の色も赤い。それに腫れもいささかある様子。そっと動かしてみた。 「ウッ!痛いっ・・・」 アルコールが入っているお陰で痛みをそれ程感じずに眠れた。でも目覚めた今は返って痛みは昨夜より感じる。 ベッドから起きて歩き出したが左足の踵を着けられない。爪先を静かに降ろしそっと歩く。 テーブルの上のメモを読み、乱暴な言い方で綴られていながらも、その温かさが心に伝わった。 「先輩!ありがとう。 先輩・・・何時に帰ったのかな?」 少し気になった。 痛いながら風呂に入りたい。しかし、痛みと腫れからして湯船には入れない。シャワーだけでも浴びる為にバスルームに入った。 体と髪を座ったままで洗い終え、出た来て着替えを済ませ軽く食事をした。時刻は7時30分。出掛ける時間までまだ少し余裕があった。 何か連絡が入っていないか携帯をバッグから取り出す。閉じてある携帯電話を開いた途端そこから曲が流れた。 「はい。牧野です。」 「大変だ!プロジェクトが流れた。」 それは、類からの連絡だった。 「エッ!今何て?」 あまりの掴み所のない内容に聞き返すつくし。 「東京・NYの店の内装工事を担当していた企業が倒産した。既に資金を預けてある事も関係して、今回の事業計画は一端中止。事実上の打ち切りになりそうだ。」 類の落胆振りが伺える声だった。 「それじゃあ・・・うちの事業部は?」 「恐らく解散になると想う。」 「そんな・・・・・」 足の痛みも忘れ、ショックが全身を襲った。 「これから連絡が入るかも知れない。それか、社に行くと報告があるだろう。こんな事になり済まない。」 「先輩のせいではありません。倒産したのは別の企業ですから。」 「しかし、一緒に完成させ祝杯を上げたかった。」 「はい。」 「少しの間、忙しくなるかも知れない。でも、連絡はするから会える時は都合を付けて逢って欲しい。」 「はい。」 「じゃあ。また連絡する。」 「無理し過ぎないでください。」 「ありがとう。」 こうして、電話を切った。その後に純から同じ内容の連絡を貰う。 「何時もより早めに来れますか?」 「もう支度は出来ているけど、早く歩けないの。」 「どうして?」 「昨夜、あれから転んで捻挫したらしい。」 「医者に行ってないって事ですよね?」 「う・うん。」 「解りました。部長には俺から連絡を入れます。それと、支度が出来ているなら今から俺がそこまで迎えに行きます。」 「エッ!で・でも・・・」 「西門さんは平気で、俺はダメだなんて言いませんよね?」 「な・何言ってるの?」 「とにかく行きます。場所は?」 「そ・それじゃぁ・・・・・・・・・・」 純に住所を教える形になった。戸惑いながらエントランスに向かう為、部屋を後にするつくしだった。 つくしが、マンションのエントランスに降りて数分後、純は車で迎えに来てくれた。 29歳の若さで、BMWに乗る青年。 《高級車!ヤダな・・・竹内君も御曹子だなんて事無いよね?》 つくしは、ふと思い付いた様に心に問い掛けた。まさか本当にそうだとはまだ知らない。 「お待たせしました。大丈夫ですか?」 着くなり身のこなしの早い純は、車から降りるとつくしの元に駆け寄り、その痛む足に視線を送り尋ねてくれた。 「うん。ゆっくり歩けば問題ないの。すみません!急いでいる時に。」 「いいえ。それより、先に病院に行きましょう!」 「エッ!まだ8時。受け付けてくれるところは無いわよ。」 今の時間が、診療時間より早い事で、待ち時間が掛かる事を意味してつくしは言った。 「ううん。大丈夫です。知り合いの病院で診察してくれます。行きましょう。」 「ん?・・・う・うん。」 車と言い診療時間外で受け入れてくれる医師の手配と言い、何れも手際の良さの他にF4と同じ匂いを感じて仕方ない。 行った先は、個人病院ではあるが規模の比較的大きな病院。そこの整形外科に受診した。 医師は30後半。つくしより少し上と行った年頃。 「捻挫ですね!CTで骨に異常はありませんし、固定をし冷やして経過を見ましょう。」 「はい。ありがとうございました。」 「純にこんな可愛い恋人がいたとは驚きだ!叔父さんは知っているの?」 「いいえ。慎也さん!まだ恋人ではありません。牧野さんが気を悪くするから早合点は止めて下さい。」 《まだ?・・・それに名前で呼び合ってるし、叔父さん?やっぱり親戚筋!》 「ごめんごめん!それじゃぁ、無事成就の時は教えろよ!」 「はい。」 《またまた・・・なになに?訳解んない・・・》 「まだ誰もいないし費用も要りませんから、これで帰って良いですよ。あとは、これを貼って出来れば安静に! 次の診察は1週間後で良いです。」 綺麗な顔の若き医師。 「診察代は要らないって・・・困ります。」 「純の知り合いだから要りません。純を宜しくお願いします。」 「エッ・でも」 「良いんですよ」 「・・・は・はい。」 押し問答でらちが明かず、已む無く好意を受け取った。側に居る純は、ジッとつくしを見つめていた。 「朝早く申し訳ありませんでした。じゃあ・・・1週間後に伺います。」 こうして、再び純に付き添われる形で病院を後にした。 「俺の尊敬する従兄弟です。」 車の中で医師との関係を聞かされた。その流れから行っても、恐らくセレブに違いない事は車の事もあるし予想出来る。《年下で、しかもイケメンセレブ。あたしはただの同僚。なのに、親切にして貰えて有り難い。》 この期に及んでも、何も気付く事の無い鈍感女子・・・恐るべしと言わざる得ない! 《それより・・・仕事の事!》それがつくしには気になった。 「色々ありがとうございました。 お陰で診察も受けられて、しかも高額な治療費も免除されて申し訳ないです。」 「いいんです。お役に立てて嬉しいです。 それから、仕事の件ですが!大変な事態です。解散になるだろうって聞いてます。」 重い口調で純が言う。 「倒産したって?」 「エッ!・・・そうか・・・もう、連絡が花沢さんからあったんですね! じゃあ・・怪我の事は?」 類の事に触れられ、表情を曇らせる。 「言いませんでした。社も違いますし、直ぐに言う必要もない気がして・・・」 「それじゃあ、俺の方が先に聞いた訳ですね!」 「エッ!・・・あっ・・・まあ・・そうなります。でも、それが何か?」 「いいえ。花沢さんより先に俺に話してくれた。その事が嬉しいだけです。」 つくしは、首を傾げそれでも今はそんな事より、今後の仕事の方が気になって仕方ない。 首になる訳ではないが、ようやくやり甲斐のある部署で前向きに取り組み始めた矢先の事態。 逸る気持ちで車に揺られた。 会社に到着した2人。 つくしの足は、処置の良さのお陰か、テーピング固定が思いの外に具合良く。診察前とでは雲泥の差があった。 「大丈夫ですか?背中貸します!」 背負う仕草をする純に、顔を赤らめ遠慮したつくし。 「イヤだ!いいわよ・・・それ程のものじゃない。それに、竹内君のファンの子にどんな反感買うか知れないもの。気持ちだけ頂きます。ありがとう。」 「ファン何ていませんよ。仮にいても俺が知らないなら関係無いです。」 「クスッ!若いって良いね。」 「牧野さんは、俺をまるきり年下扱いしてませんか?」 「エッ!・・・し・してないわ・・よ。同僚よ・・・そう、同僚として見てるわ。」 「なら良いんですけど、俺は年上だなんて思ってませんから。良い意味で!」 無言で、つくしの腕を自分の腰に廻させ純が支える体勢で歩き出した。拒みたくても、そう出来る余地を与えないと言うかのような強引さがあった。 そのままの状況で部屋に到着すると、既に2人以外全員が顔を揃えてそこにいた。その結果、視線を一気に注がれる。その中に、花沢類が在籍していた。類とつくし!純を絡ませ、視線が行きかう。 真っ先に声を掛けて来たんは野々村部長。 「大丈夫か?竹内君から連絡を貰って気になってたが、やっぱりきつそうだな?」 「いいえ。大丈夫です。診察も受けて来ました。問題無いです。歩くのが遅いだけです。」 類の視線がつくしは辛かった。こんな事なら言っておけば良かったと後悔した。 「みんな!2人も来た所で、花沢さんからお話しがあるそうだから、耳を貸してくれ!」 部長が声を掛けた。 「花沢です。 この度は、想いも付かない事態になり、うちの事情では無いながら、皆さんにご迷惑をお掛けする事態になりました。 額が少ないなら、資金繰りもどうにか出来るかも知れないのですが、今回の計画はそれを容易く出来る内容ではありません。それが証拠に、こうして皆さんにお骨折り頂いていました。 当社も、倒産に当たり損失を既に受けております。その損失を踏まえても進められるか否か、昨夜から検討した結果。被害額を最小限に抑える為にも、今回の事業は見合わせる事に踏み切りました。 ただ、私としましては、100%諦めた訳ではありません。少し猶予は必要ですが、機会を見て立ちあげたい希望はあります。 その時が来ましたら、ここにいる方には必ずお声を掛けさせて頂きます。 申し訳ありません。」 花沢物産の責任では無いのに、誠心誠意謝罪する子息。反感より仲間の胸を打つ。 「貴方が謝罪する事はありません。仲間なんですから!」 「いいえ。監督不行き届きです。でも、そのお言葉心に沁みます。」 「みんな!知らないと想う事情は、後からゆっくり話そう。 ただ言える事は、今のお話しの通り計画は未定の先送りになった。2~3日整理に掛かると思うが、来週から声が掛かるまでは、元の部署に戻って貰う。 短い間だったが、色々ありがとう。」 類は一礼すると、つくしの元に歩み寄る。 「その足は?」 「昨日、挫いたの。言わなくて済みません。」 「何で言わなかったの?」 「それは・・・」 つくしが言い掛けたその時、純が二人の元に近付いた。 「それは、貴方に心配させたく無かったんじゃないですか!それ位解りませんか?」 「君なら良いって訳?」 類にしては珍しく、そこがどこかも関知せずに言葉を続けた。 「花沢先輩!竹内さん!」 つくしを挟んで、言い合う青年2人。3人のその姿に周囲が驚き凝視する。 「そこで、何してるんだ?花沢さんまで加わって。」 部長が穏やかな言い回しで近付いて来た。それでも、その声が聞こえなかった様に続ける青年2人。 先に言い出したのは純。 「仕事が、こう云う状況になった今、ハッキリ言います。 俺!牧野さん好きです。貴方に渡しません。」 「フッ!たかが、この僅かな期間一緒にいただけの君に、そんな事言われたくは無い。既に、大人の付き合いの俺とつくし。年下の君の入る隙は無い。」 その切り返しに一番驚いたのはつくし自身。 「エッ!エエ・・・????」《なになに???誰の話し?あたし?ウソでしょ?》 見目麗しい青年二人が、30過ぎの鈍感女子をめぐり、今正に戦闘態勢! 「なら、その本人に聞いてみましょう。」 「ああ。」 周囲の手前もありどうしたものかと考えていると、イケメン2人がつくしに迫る。困惑するつくしは身を一歩引いた。すると足を庇うせいもあり、周囲が見つめる中、その体勢を崩し後ろに転倒して行った。 「あ~・・・・・」 2人を含め、周囲の声もする中でつくしの身体は床に倒れた。 「つくし!!!」 「牧野さん!!!」 当事者はそれを見ながら、自分の意識が薄らぐのを感じていた。 MISOJI 1・2・3・4・5・6・7 |
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