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好きな作品を流れのままに綴ります。 二次・オリジナルほぼ【類つく】のお話です。一部【総つく】も含まれております。よろしくお願いします。まずは【はじめに】からお入り下さい。

鎮魂歌 第16章 青い空

2010-11-16 Tue 00:00

16【青い空】

司は浩二として、その日は何も出来ないまま眠りについた。

翌日散歩がしたいと言うつくしを車椅子に乗せた野田が

「浩二君!ご一緒して来てくれるかい。」
「お願いします。」
つくしも言葉を添える。

病院の外周辺をゆっくり押して気持ち良い空気に2人で触れた。

「声が出せない浩二さんと見えないあたし。
妙な取り合わせね。
アッ!
気にしないでね。
何か親近感を覚えるって言いたいだけだから。」

司は声の変わりに手を鳴らした。

「それいいね!
返事されてるって想えるもの。」

歳も近く体に今のところ支障がある若者と捉え、気持ちを許し知り合ったばかりのその青年にポツリポツリ自分の事を話しだした。

「久し振りよ!
こうして敬語じゃなく話をするのは。
野田さんはとても良くしてくれる。父親の様にさえ思える位。

でも、目上の人に気安く話す事は出来難くて、野田さんも厳格な生真面目な人だから、つい前に出ると固い口調になってしまって。
浩二さんはなぜか凄く懐かしい感じがして。
ごめんなさいね。
こんなあたしが言っても嬉しくないよね?」

想わず抱きしめたい衝動に駆られながら、手を握っても知られる可能性を感じ必死の想いで踏みとどまった。
そして取った行動は肩にそっと手を置く事。

「エッ?ありがとう。
そんな事ないって言ってくれてるのね。」
「パン」
「会えて良かった。」

つくしの口から久し振りに幸せな言葉を聞く事が出来た嬉しさで、昨日に続き涙が頬を伝う。
悟られない様に今日も拭う事無く涙をそのままに!

「あたしね、幾つも罪を犯してるの。
人を悪者にしたり・悪意を持つ様にさせたり・見捨てたりって・・・

だから、罰を与えられたんだと想う。
許してくれても自分が許せない罪。」

見えないとは想えない大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「アッ・・・イヤだっ。
何で涙が出るんだろう?
恥ずかしい。
野田さんに内緒ね!」

司は本音を聞いた想いで胸が痛んだ。
正に自分「道明寺司・花沢類」この2人に向けた罪悪感。
野田の言う通り耐えられるだろうかと・・・不安が募った。

それから少しすると痛みが増して来たらしく話しもしなくなる。急いで部屋に戻ってベッドに横にさせる。

「今夜は食事は、飲み物位で良いです。」

鎮痛剤を打って貰いそれだけ言うと浅い眠りについて行った。
食事が取り難い状況から、既に毎日針を刺す事をしなくて良い様に持続的な形の点滴処置が施されている。
痛みで荒かった呼吸が緩やかになって行くのを見届け2人は休憩室で話しをした。

「耐えられそうですか?」
「何とか。」
そう応えるのでやっとだった。

司は朝目覚めてから消燈までを3日こなした。
肉体疲労はないにも拘らず疲労困憊に近い苦痛を味わっている想いでそこにいた。

つくしは散歩に出た翌日から2日間熱を出し車椅子に乗る事もない。
司はただ側にじっと言葉を発する事なく佇んでいた。

浩二につくしが声を掛ける。
「疲れるでしよう?
ただそうしているのは。
どうぞ散歩して来て下さい。この匂いなら天気は良い筈だから。」

つくしの言う通り外は快晴。部屋にいると眠くなる様な日差しが入りこんでくる。
つくしは少し回復して来たらしく話しを始めた。

「浩二さんは会いたい人は何人いる?
アッ・・・親とかじゃない・・・気になる人。」
「パン」
「そう。   1人?恋人?」
「パンパン」
「違うんだ?」
「パン」
「でも会いたいって言う人って事は好きな人なんだ?」
「パン」
「会えると良いね!」
「パン」
「あたしは2人。
欲張りだね。
でも浩二さんと同じで恋人じゃないの。
2人には心から謝りたい。
そして・・・その2人には、もう一度手を取り合って貰いたい。」

それを言い終えると目を閉じ語らなくなった。
布団をそっと掛け直し、廊下に出ると尽きぬ涙がまた溢れて来る。

外のベンチに座り空を見上げ、真っ青な澄み渡る一面を眼を細め眺めた。
どれ程見ないでいただろうか?
見える自分は言われるまで気付かず、見えないつくしにはこの青さが脳裏に映し出されていると思うと、それだけで何をしてきたのか胸が痛んだ。

つくしとの未来を想い描き過ぎたのか?
現実をないがしろにしたつもりはなかった。でも足元を築き上げるのを怠ったのが原因だと今なら素直に受け入れられる。

司は携帯の電源を入れ耳元に近付けた。


 鎮魂歌 

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