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鎮魂歌 第7章 見えぬ影

2010-11-06 Sat 00:51

7【見えぬ影】

花沢類は久し振りに私邸に戻った。

それは愛する牧野つくしの願い。

花沢の後継者としての自分の立場を気遣っての事。

しかし、帰宅した花沢類に待ち受けていたのは、想像を遥かに超える事。

それは、父からの命令。
つくしと距離を離す様にと指示された。

そして今また、母・真由美が眼の前に・・・・・

『母は、何を言うのだろう?』
類の脳裏を暗雲が覆う。

「類・・・何だか痩せたわね!  体・大丈夫?」
「大丈夫です。何の問題も有りません。
それよりなんでしょうか?
お母さんがワザワザここまで来るなんて」

ジレったかった。
受ける雰囲気も話し方も。
気持ちを弄ばれてる様で!
イライラした類が切り出した。

「すみませんが、早く話して下さい。勿体ぶるのは止めてくれませんか?」

含みを持った笑みを見せて母・真由美が話しだす。
「そうね。そろそろ話させて貰うわね。」
類の表情が強張る。

「はっきり言って、反対です。
お父様が何て言われたかまだ知りません。
例え賛成されたとしても、母親として私は反対します。
そして、もう会わないで欲しいとも思ってます。」

「なぜですか?」

「道明寺さんの恋人と云う事実。
それだけでも異論が有るのに、婚約式までする間柄のお嬢さんを、この状況で認める方が不思議では無いかしら。しかも、大変な怪我をされたと耳にしているけど・・どうなの?その脚の具合?」

「知ってるんでるんですか?
あの病院の守秘義務はどうなっているんです?」

「誤解しないで頂戴。
幾ら繋がりが有るとは言っても、そんな大切な事漏らす訳無いでしょう!」
「ならなぜ?」
「偶然小出があなたを迎えに行って耳にしてきた事だけど、右足動かないそうね。しかも、これからもずっと。」
「お父さんは知っているんですか・・・その事?」
「やっぱり本当だった様ね。」
「試したんですか?」
「そうでは無いけど。類の今の様子だと想像しているよりひどいのネ」
「・・・・・」

「この事はお父様は知らないわ。でも、いずれ知るのでは無いかしら。
ねえ類、あなたは自分の置かれている立場を解っているの?
確かに普通の家庭なら問題無いかもしれないけれど、あなたは違うの!

何れ代表の立場が待っているって事を少しは理解しなさい!」

「お母さん!」
「私は牧野さんの為にも言ってるの。
代表の相手となれば、私の様にサポートは必要になるわ。なのにそんな状態では不可能でしょう?
辛い想いを強いられるのは他でもない、あなたの愛する牧野さんなのよ。
それでも良いの?」

「だったら、勘当してください。
普通の家庭人で生きて行きます。それで、俺が牧野を守ってやります。」
「呆れたわね。
そこまで骨抜きになっている何て。
類!あなたの望む様にしようとしても、肝心の牧野さんは受け入れるかしら?」

「牧野に何か言ったんですか?」

「落ち着きなさい!何もしてはいないから。」
箍が外れた想いは、留まる事を知らないとでも言う様にあきらめを指示され、更に深く募って行く。

「俺は一度は諦めました。牧野が幸せに成るならと。
でも、どうでしょう?
事故の日、俺があの場に居なければ恐らく牧野はこの世に居無かったでしょう。
恋人の司が居るのにです。
なぜだと思いますか?
俺の口からこれ以上は言いたくは有りません。
でも、それで決めたんです。もう遠慮も我慢もしないで行こうと。
事故以降にしても、状況は変わりません。道明寺の人間は誰も心配して来ようとはしません。

牧野は、俺が居なければ一人なんです。

お母さんとお父さんは、恋愛で結ばれたんでは有りませんでしたか?
なのに、俺の気持ちが解って貰えないのが悔しいし、寂しいです。

これ以上はお互いに平行線でしょうから、今は何も聴きたくありません。
一人にしてください。」
嫌気がさした。

結局は家と云う問題が全てになるのだ。
類は花沢を捨てる事など何とも思っていない。牧野つくしを失う事の方が遥かに辛い事。
母を部屋から出すと、一気に現実が全身を包み込んだ。それと同時に一人にしたつくしが尚更気になった。

その頃つくしは望み通り部屋を移った。
そしてそこは、再び同等とも言える豪華な特別室。

その事態を不思議に思い看護師に尋ねた。
「今度もこんなに広い部屋ですか?
他の病室ならどこでも良いとお願いしたんですけど。」
「そうなの?
でも、牧野さんの保証人の方が数カ月先までの病室の前納が済んでいるようですよ。ですから、この部屋で良いみたいです。!」
「そ・その保証人と言うのは、なんて方ですか?」

「婚約者のお家じゃないでしょうか?
でも、詳しい事は解りません。」

愕然とした。
迂闊にも、入院費は退院の時で良いのかと思っていた。
既に相当の金額が預けられているのだろう、その証がこの部屋。
移動と云う勝手にも拘らず、特別室に移された。

金だけの援助!
正に道明寺家のやりそうな事。

類と離れる事を選んだ先には、重い現実があるのかと遣り切れなさが胸を突いた。
見え難い視界の中で、先への不安が増して行く。


つくしは部屋を変えた。類には知られぬ様に。

類は花沢の私邸に行き、この先戻れないかも知れない!
つくしはそう判断していた。
何故なら、私邸から迎えの人物が類の元に足繁く通っている事を知っていたから。

会えないと想う気持ちが、尚一層会いたいと想わせる。
自分で決めた事でも、類の事を嫌いになった訳ではない。寧ろ「愛している。」

泣くのは今日限り。
これから待つ生活が恐らく、自分の想像し得ない物になるような気がしている。
既に眼の前は視力は落ちている。その為、本は読めない状況になりつつある。

主治医の加藤医師は
「何れ脳神経外科の手術をしましょう」
とつくしに病状説明で言っていた。
しかし、その説明のある部分をつくしは気にして受け止めている。

『最初に手術で切除したかったのですが、全身状態やその部位に問題が有り無理でした。』

恐らく加藤先生はさらりと言い流したつもりだったろう!
しかし、受け止める側は、一字一句一言全て漏らさず聞こうとしてしまう。
『その部位に問題が有り』そう言った。その為に手術が出来なかったと。

今回の事で発見したのだろうか?
だとしたら、恨むべき犯人に感謝しなければならないのだろうか?

しかし、そう暢気な事ばかりも言っていられない。それは、視力に支障が出始めている。
始めに出来ない手術をこの段階で出来る物なのだろうか?

「手術」と言う処置は多分見送られる気がして成らない。
部屋移動の時に、看護師から近々MRIを受けると言われた。
その結果を親に説明したいから『日程が決まったら来て貰います。』とも言っていた。

類が私邸に帰り、初めて病院で1人きりの夜を迎える。
広く慣れない部屋。
静寂の中に身を置くと、有り余る時間はあっても交わす言葉のない空間は、視界の僅かなつくしにとって遣り切れなさを思い知らされる。

「花沢類・・・今どうしてる?」

同じ頃、類もまた静寂な中に一人ベッドに横になりながら、マジマジ眺めた事など無い天井を意味も無く見上げる。
今は深夜。セキュリティー上から病院に行った所で入れてはくれないだろう。そんな事を考えながら。しかし、親の言葉に従うならしばし会えない。
「嫌だ!
会いたい・・・・・側に居たい。」
両手で顔を覆った。

眼を閉じれば、その中につくしが笑みを浮かべ座っている。
想い出す顔が笑顔で救われた。

出なければ、居ても立っても居られやしない。
深まるばかりの想いの先。
ふと
「どうなるんだろう?」
不安が胸を締め付けた。

類の長い夜も更けて行く。


 鎮魂歌 

鎮魂歌


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