STARLIGHT

好きな作品を流れのままに綴ります。 二次・オリジナルのお話です。よろしくお願いします。まずは【はじめに】からお入り下さい。

ロード 2歩 決意

【2歩  決意】


《回想 1年前》

道明寺楓
司の母であり、財閥企業・道明寺ホールディングス社長。

司と共にNYに生活基盤を置いている。
しかしこのところの、景気後退の影響がホテル業界に下降傾向を与えている事から、道明寺グループホテルとして、何か打開策を打ち出せと帰国前に指示を出していた。
今回は、社長自ら士気を高める必要もあると考え、あえて帰国に踏み切った。その帰国は報道でも伝えられ、起爆剤に成り得るかもしれないと期待も兼ねて流された。

既に邸宅に着いていた道明寺楓
「呆れたものね!何が起爆剤よ!!他のホテルや企業の為に帰国した訳ではないのよ!」
怒りを口にしてTVを切り、パチッ!!新聞をテーブルに叩きつける。
「はい。その通りで御座います。」
秘書の西田が側に控えて相槌を打つ。常に楓の側近として過ごしている西田もNYから共に帰国した。
「それより、何か聞いてる?」
「アッ!ホテルに提示している案の事でしょうか?」
「そうよ!そうに決まっているでしょ!」
「いえ・・・まだ何も。
帰国前、打診したのですが・・・もう少しだと・・・申して折りました。」
まだ最終期限には至っていないが、間もなく期日は迫っているのは確かな時期でもあった。
「全てのホテルがなの?」
「・・・・・は・はいっ・・・」
「呆れた・・・・・ホトホト呆れたわ!
せめてメイプルくらいは何かないの?」
「美山総支配人はある・・・と。しかし、お見えになってからお話ししたいと申して折りました。」
含み笑いを見せる社長。
「そう・・・なかなかな人物だこと!
恐らく、他と同様にないのだと思うけれど・・・ある!と答えるなんてね!いい度胸してるじゃない。
さすが美山は私が見込んだだけあるわね。
ねえ?西田!そうじゃなくて?」
「左様で御座いますね。」
「明後日、まずはメイプルから行くから、そう伝えておきなさい!」
「その前に、明日は会社に出社します。良いわね!」
語尾の強さに考えの強さを感じずには居られない西田だった。

一方、安アパートのテーブルの上には、めったに眼にする事のない経済紙があった。
「道明寺社長帰国・・・か!」
テーブルに両足を投げ出し、椅子に全体重をかけるように座り、思い切り煙を吐き出す人物が1人。
特に経済など興味はない。ただ単に獲物を狩る為に手にしていた新聞を放り投げながら呟いた。
「秘書にでも今回は小銭を出させ様としたけど、大御所のご帰国を知ったら、それを逃さない手はありませんよ!
フッ!ハハハハハッ!!
どうやら・・・小銭じゃなく、最初から大枚が懐に入って来そうだぜ!」
小菅は、写真を握り上機嫌で笑い続けた。

翌日早朝、小菅は道明寺邸を偵察し、社長である楓の行く先を車で張った。そして・・・会社。

「どこまで、この俺様の都合に合わせてくれてんだか!悪いじゃねえか!
さあ!一服は、お楽しみの後にしようぜ!」
独り言を言いながら、路駐して大企業のエントランスへ入っていった。

その頃つくしは、司がNYへ行き、ようやく冷静に将来の夢と現実を見極めていた。
本当に自分が司の元へ行くとしたら・・・

確かに司の母親の道明寺楓は、息子の恋愛を反対はしなかったが、だからと言って賛成してくれた訳ではない気がしていた。
恐らく付け込む事態が見つかれば、そこを突かれる決まってる。今自分で出来る事は何だろう?
『大学は入っておくべきだ!』
いつだったか、花沢類に言われた言葉。
それは確か
『学歴で人は判断出来ない!』
そう言ったら、ムキになって花沢類に言われた。
『学歴をとやかく言うつもりで言ってる訳じゃない。俺は、知識を身につけるべきだと言ってるんだ!』
そう返された。つくしはあの日以来、大学へ行く意味が自分の中で全く違う見方をする様になっていた。
『大学・・・行こうかな!』
真剣に考えた先で真っ先に頭に浮かぶのは、他でもない授業料だと云うのがつくしの実情。
『アッ!やっぱり、英徳は無理だ!』
例え奨学金を受けられても、いずれ返金するようだ!額を考えると恐ろしくなりそうだと身を震わせた。
なら、行ける大学を選べば良い!
最悪、夜間と云う手もアル。でも、始めから夜間を選ぶより、まずはやるだけの事をしてみようと決めた。
そこで、浮かぶのは授業料の安い大学!
『国立だろう!!・・・・・・エッ!国立?・・・』

考えてみたら、英徳ならエスカレーター式で受験は不要だった。しかし、国立と成れば再び受験が待っている。
それでも、つくしは花沢類の言葉に従う事を選んだ。
受かる・受からない。
そこにも運命は、潜んでいる気がしたからだ。
受からない時は、それが自分の行く先とその時に想えば言いと!

受けるには、今以上に勉強しなくてはならない。
そして、今から国立を受け直すと言えば・・・司に知れて、何を先回りされるか知れない!
『誰にも言わずにいよう!』
それも、つくしが選んだ結論だった。



小菅徹は、道明寺ホールディングスに着いた。
フリーライターの名詞を受付に渡すと、胡散臭いとばかりに露骨に嫌な顔をされた。
「姉ちゃん!
会社の顔でもあるここの者が、その顔はどうかと思うね。
良いから、早いとこ連絡しろ!!
そうしないと、大企業の名前に傷が付くって言ってんだよ!!」
2人の受付嬢は、怒鳴られてようやく秘書室に連絡を入れた。

「わかった。そこでは、他の目があるから良くない!
私の部屋に通しなさい。しかし、その時に秘書室とは説明しなくて良いから!!」
西田は、受けた電話の遣り取りで、あくまで冷静に穏やかに伝えた。
「わかりました。」

それから5分後
コンコン
「どうぞ!」
「失礼致します。」
小菅は、通された事で気を良くし、そこが秘書室とはまだ気が付かずに居た。
なぜなら、西田の部屋は道明寺楓の第一秘書として絶大な権限を持つことから、秘書としては最高の扱いを受けていた。部屋は重役に匹敵する程の見栄えのある広さと調度品で整えられている。
社長に代わり、相対するゲストに向けての意味もあるからだ。

「初めまして、秘書の西田でございます。今日は、どのような件でご足労頂いたのでしょうか?
只今、お約束のお客様と社長はお会いになられて折りますので、代わりに私が承ります。」
小菅は、ドカンと座り心地の良い3人掛けソファーに腰掛けるとテーブルの大理石のトレイからタバコを取りながら
「もらうよ!
やっぱりタバコも違うねえ!俺なんかが買う安物とは見かけも・・・ん~・・・匂いも違うぜ。
なあ西田さん!」
煙草に火を付けひと息吸い込むと、煙を天井に向け吹きながら、ギッと西田を見据えた。
「でも、なんだなぁ、、俺は随分見くびられたもんだな!
秘書室にだまして通されて、挙句に約束の人間と会ってるだ?
たった今来たばかりで、どこのどいつも入り口には入って来ないのを見届けて来たのに?
一体どこから、そのお偉いさんはお忍びで来たんでしょうね?」
「それは・・・・その!」
さすがの西田も小菅の威圧感にぐうの音も出ず、言葉に詰まっていた。
その時
「もう良いわ!西田ともあろう者が、これしきの剣幕に押されるなんて情けないわね!」
話しながら社長自ら部屋に入って来た。
「申し訳ございません」
ルームコールをオンにし、会話を全て聞かせていた西田が腰を屈めながら楓を待ち受けた。

「社長様のお出ましですか。初めからそう願いたかったですね!」
「確かに、まだゲストは見えなくても、私は1分1秒余分な時間はありませんの!
ですから、前置きは不要でお話しになって頂けるかしら!」
「ホウッ!お忙しくて何より・・・では、早速これを見て頂きましょう!」
そう言うと、牧野つくしの父・晴男の写真がずらりテーブル一杯に広げられた。
パチンコ屋に入る・出る。真剣にパチンコをする姿・金を注ぎ込む姿・店から出て来て途方に暮れる姿・圧巻はマネーローンから出て来て札を数える滑稽な姿が、ずらりその場に広がった。

楓は、汚らわしいモノを見る目付きで、写真を手には取らずに見た。
「幾ら?」
顔を背けながら言い放った。
「さすがですね!話が早い。」
目の前に両手を広げて小菅が希望額をかざした。
「解りました。差し上げましょう!
先程も言いましたが、私は1分も無駄には出来ないの。二度とここへは顔を出さない様にして頂く為に、気が向かないけれど希望より上乗せして置きます。
ただし、金輪際受け付けません。もし、次があるとしたら手が後ろに回ると覚悟して現れる事ね!
それに、近々そこの人間は私共とは無関係になっていると思いますから!」
ジッと楓の顔を見つめた小菅。
「氷より冷たいとは聞いてたけど、ここまでとは知らなかったぜ!
仮にも、あんたの可愛い息子の恋人の父親じゃねえか?バッサリ円を切ろうって言うんだ?」
「あなたに言われる筋合いじゃなくてよ!
実際、それをさせるのはそちらでしょう?」
「ああ!そうだよ。確かにな!
でもまあ、考えように寄っちゃあ・・・あの家族も娘もその方が幸せかもしんねえな!」
煙草を大理石の灰皿に擦り、火を消しながら呟いた。
「まあ・・・それはどう言う事かしら?これ以上私を怒らせたら何も渡しませよ?」
「そりゃあ困りますネ。じゃあこれくらいで止めますか。
では、頂きましよう!」
屈めていた姿勢を正し対峙する。
「ネガと交換です。」
「ネガは、これだよ!」
話している間に西田が金を用意していた。話が終わると同時に、アタッシュケースが社長の前に置かれる。そして、突き出すように前に押した。
「どうぞ・・・」

中を見て予想外の金額に思わず息を飲んだ小菅。見るからに2千万を越えているようだ。
「取り上げらんねえうちに、おいとましますかね!」
小菅は、早々に部屋を後にした。
100万と言ったつもりが1千万に思われ、上乗せと言う事から2倍に膨らんでいた報酬。
「2千万か!・・・」

ふと、つくしの顔がなぜか浮かんだ!
『縁・・・切られるのか!』



ハイエナが引き揚げて、道明寺社長は、独り自室で机に向かい険しい面持ちで視点を宙に浮かせていた。
今まで、ゆすりたかりの経験などない。
なのに!

道明寺楓・・・道明寺司の母である前に、膨大な社員の生活をも支える大企業の社長。
夫が病床の中、実質・夫人である楓の手腕でここまで来た。
スキャンダルは、絶対的にあってはならない。いつ足元をすくわれるか解らないのがこの世界。経済状況が混沌とする中、辛うじて最前線を進んで来れたのも、今までの企業家としての実績があっての事。
ここで、つまずく訳には行かない。しかも、それが身内になるかも知れない者が原因なら尚の事だ。

例え・・・息子が、愛する人間との別れになろうとも。

デスクのコールボードに向かい、再び険しさを露わに告げる。
「西田!私の部屋に来て頂戴。」
意を決し道明寺楓は立ち上がった。


その頃、牧野つくしも生活を変える仕度に取り掛かりつつあった。全ては、司との未来の為に!
自分の為、強いては道明寺ジュニア・司に相応しい女性になる為に!
知識を高める為に大学へ行く事を決めた。
自分を引け目に思わぬ様に!
その一心で決めた新たな受験。しかし、それを知れば恋人が何がしかの手を打つに決まっている。
憶測できるだけに、誰にも言えない。この先も知られぬ様に目的の為に必死だった。

身近にほころびがある事も知らずに・・・

この所、つくしは親しい仲間と会う暇さえない状況でいた。なぜなら、夏までに自分で決めた目標のレベルまで学力を付けていたいからだ。
行こうとする学校が、どれ程の場所か知っているだけに焦りは激しい。それでも、無性に会いたいとは想っている人がいた。
その日は、睡眠時間がそれ程ないにもかかわらず、余裕ある時間で眼覚め、窓を開けると朝日が気持ち良かった。
「花沢類・・・会えたら良いな。」
高校と大学が同じであっても前のようには、なかなか会えない。しかも、つくしの忙しさと同時に類の事情も絡む。でも、不思議に会えたら良いな!と心底想う日には、なぜか非常階段に花沢類は居る事が多かった。
以心伝心とは、このことなのかと想う。

今日は、早く眼が覚めて「会えると良いな!」そんな気持ちもあり、類の分も弁当を用意した。
四角い包みを二つ。
カバンとは別の手提げに入れて学校に向う。余裕の時間のハズが、弁当に時間をかけ過ぎたせいで、いつにも増して忙しい朝になってしまった。
「マズイ・・・遅刻かも!」
ギリギリセーフで教室にかけ込んだ。
つくしはこの頃、休み時間は秘密の場所に行っている。それは、始終単語帳を見たり、あるいは寝ていたりと、その様子に不信感を持たれ始めたのがキッカケ。
そこは、校舎裏の廃材を置く場所。物置と隣接している。軒もあり、雨もしのげて、日差しもそれ程当たらない場所。
冬は寒いだろうが、これからの季節には、むしろ大助かりな場所に想える。しかも、廃材は机や椅子が主で、、つくしには打ってつけだった。机の表面が剥がれたり、椅子に傾きがあるのとか、背板のズレがあると云った程度の物。
どこか居られる所はないかと、あちこち歩き廻り辿り着いたのがその場所だった。
今では、日に何度も訪れる大切な場所。
非常階段は、つくしに取って「癒しの聖地」で、類との大切な空間。その場は「自己改革の場」。

この日も、わずかな休み時間でさえも来ていた。いつもの寝不足に加え、疲労もあって身体を気だるさが覆う。
「明日から、休み時間に教室で寝た方が良いかな?」
やがて時刻は、昼食の時間。つくしは2人分の弁当を持ち非常階段にいち早く足を運んだ。
類より早く着いていようと考えての事!
でも、来るとは限らない。
しかし、来てくれる事を願って!
メールでも打てば良かったのかも知れない。

つくしはひとり、天気に誘われ大きな声で空に向かい
「天気は良いし、気持ちも良いし、良い事ありそうな予感にカンパイ!」
一足先に持参の麦茶を空にかざし、一気に飲み干す。グゥ~と、お腹が鳴いたのを機に呟いた。
「先に食べてますか・・・」
弁当のひとつを隣に置き、自分用の弁当を食べ始めた。
「ん~!美味しい・・・自分で言うのも何ですが、今日のは上出来!」
そんな独り言を言っている所に、ドアが開いた。
「花沢類?」
「アッ・・・居た、居た!先輩!!」
そこに現れたのは桜子だった。
「何・・・どうしたの?桜子がここに来るなんて珍しい!」
「早いですね。教室に行ったら、もう居なくて・・・休み時間もどこに行ってたんですか?」
「エッ!休み時間にも来たの?ごめんね・・・」
「いえ、良いんですけど。」
「でも、なんで?何か用?」
「アッ!そうです・・・・・今日、西門さんがお昼ご馳走してくださるそうです。
美作さんと賭けをして負けたとかで、急遽みんなにもランチご馳走してくださるって!
それで、私が先輩をお迎えに来ました。花沢さんも見えてますよ!」
「えっ!そう・・なんだ。」
つくしは、少なからず気落ちしていた。既にカフェには類が居ると聞いた事で!
総二郎とあきらが居るなら、むしろ当然の事なのに!
それでも、なぜかせめて迎えが類でいてくれたなら・・・そう思いつつ。用意した自分の弁当と包んだままの四角い包みを交互に見た。
「ありがとう。桜子!
でも、今日は遠慮しておくよ。もう食べ始めてるから。この時期は、食べ物は傷むから持って帰れないし、もったいないからさ!」
「エー・・・でも!」
「良いの良いの、気にしないで!」
「アッ!それ?」
包んだままの四角い物を桜子が見ていた。
「アッ!!何でもないよ。それより早く行きなよ、待ってるよ!
それから、言っておいて、あたしも誘ってくれるなら前もって言ってくれなきゃ無理だよって!・・・ネッ。」
「はい。・・・わかりました。」
ションボリ帰って行く桜子の後姿に声をかけた。
「桜子。来てくれて・・・ありがと!」
「はい!」
振り返り、かわいい顔を見せてドアの向こうに去って行った。
「そっか・・・・・」
類に用意した弁当を見つめて話す。
「今日の感は、見事に当たりませんでしたね!」
そう呟いた。食べ始めた弁当に蓋をする。
「勉強しながら、向こうで食べよう。」
二つの弁当とお茶を手提げに入れると、つくしもその場を後にした。


カフェに桜子が一人で現れた事で、不思議そうに仲間が視線を注いだ。
「牧野は?」
真っ先に声を掛けたのが類だった。
「今日は、もうお弁当食べ始めてるから、遠慮するって・・・」
「何で?
アレッ?桜子。朝の時点で決まった時に、牧野に言っておけって言ったのに言ってなかったのかよ?」
「先輩、休み時間に毎回居なくて・・・」
「しょうがねえな!
でも、そうならここに持って来て、みんなで弁当食えば・・・」
総二郎が言うと
「アッ!そうそう、もう一つお弁当ありましたよ。先輩の隣に。あれって、もしかした・・・・」
桜子が、言い終わらないうちに、類はカフェを飛び出していた。
「あれ?花沢さん、どうかされました?」
「「「桜子!」」」
訳のわからない桜子に、総二郎・あきら・滋は、顔を見合わせ溜息をついた。



類は、焦る思いで非常階段に向かった。
ドアを開け呟く。
「牧野・・・」
既につくしの姿はない。ゆっくりその場に近づき、水のこぼれた跡がコンクリートにあった。
まだ、名残を示している小さな影。
「ごめん・・・」
視線を落とし、小さな声でそう言った。

非常階段から秘密の場所に移動して、単語帳片手に壊れかけの机に弁当を置き、椅子に座り昼ごはんを食べながら、つくしの頭に浮かんだ事。
「来年からは、これが日常になるんだ!」
その現実を一足先に見ている気になった。

「ア~アッ!
今日のお弁当は、いつもより一段と出来が良かったのに、本当に残念だったな!でも、しょうがないか・・・こんな日もあるさ。」
類にと作った弁当も平らげ、いささかいつもより眠気が増す。
「満腹過ぎると、よけいに眠いよ!」
そう言いながら、いつしか眠りに着いていた。
寝不足と疲労。そして、心地良い気候が揃い、深く眠ってしまっていた。
ビクッ!
不意に目が覚め、辺りを見回し青ざめた。既に夕刻。
「う・うそ!
えっ?どうしよう!!!」
混乱する中、手提げを持ち教室へと駆け出した。薄暗い中、自分の机のカバンを見たが見当たらない。
「ない・・・ない!
あたしの・・カバン!」
いじめ?いや、そんなハズはないだろう!
桜子?そうだ・・そうかも知れない。
そう思い込み走り出す。団子屋の定休日。今日は、バイトのない日だ。唯一ホットしながらも走っていた。
アパートに着くと、まだ通路は点灯されてはいないせいか薄暗い。つくしは、外階段を上り2階の自分の部屋にゆっくり歩いた。つくしの隣人は、通路に洗濯機を置いている。その白い物体を目印に歩いて思わずつまずいた。
自分に部屋の前を見て驚きの声を挙げる。
「花沢類!!それに・・・カバン。」
ドアと洗濯機に身をゆだね、気持良さそうに眠る類が居た。
「な・なんで?」


花沢類が寝ている。あたしの部屋のドアの前。
夕刻の点灯前の薄暗い通路に、綺麗な顔で寝る類の前に、膝を折り頬杖を膝につきながら、つくしは首を傾げた。
「花沢類・・・どうしたんだろう?何でここに居るの?」
その時、パシッと音が微かにしたと同時に明かりが点いた。類が眉間に小さなシワを寄せながら、眩しそうに瞼を少しづつ開ける。

「アッ!牧野がやっと来た。」
「やっとって?いつから居るの花沢類?」
「牧野のクラスの授業が終わった後くらいから・・・かな?」
「エッ!うそ?」
「嘘じゃないよ。あんた、終わりになったのにカバン取りに来ないから、俺が預かって来たんだ。」
「ありがとう。でも、だったら・・・ここに置いて帰れば良かったのに!
幾ら、暖かくなったって言っても、こんな時間までじゃ寒くなかった?」
「アッ!うん、少し。」
「中に入ってよ。お茶しかないけど飲んで行って。」
「うん。」
「でも、その前にドアの前だから、空けてくれるかな!」
「うん。あっ!これ・・・カバン。」
「アッ!うん。ありがとう。」

類は、つくしの部屋に久し振りに入った。両親の居る頃に来た以降は、つくし一人になってからは、司への気まずさもあり、来ないでいたからだ。久し振りの部屋に入った類の第一声。
「牧野、泥棒でも入った?」
「ヤダな、泥棒なんて入る訳ないでしょ!・・・でも、なんで?」
「だって、前よりもっと何にもないじゃない!」
「あるでしょ!机・ビニールダンスにちゃぶ台。充分でしょ!」
「そう?でも、牧野がそう言うなら充分・・何だね・・・きっと・・・」
「うん。まあ、そんな事より座ってて。お湯沸かすから。」
「うん。」
何もないと言われるのも無理はない。つくし自身、それは日々実感していた。
暑くなる季節に伴い、冷蔵庫があればどんなに良いかと思う。学校で、タレントの話題が出ても、テレビがないから話にもついて行けない。
でも、それを思ってもどうにもならないから、今を受け入れるしかない。冷蔵庫はいずれにしても、テレビに関しては、今勉強が主だから『これで良いんだ!』そう言い聞かせている。

台所に立っているつくしに声を掛けた類。
「牧野、今日お昼・・・」
切り出した時
「美味しかった?
残念だったよ。前の日にでも言ってくれたら、あたしもご馳走になれたのにさ!」
類は言うのを止めて、つくしの後姿を見つめる。
「牧野、何か隠し事してない?」
つくしの小さな肩が、ホンのわずかビクッと動いたのを類は見逃さなかった。
「俺が、非常階段に行っても、最近あんまり来ないのはどうして?」
「エッ!エエッ?へ・変だね・・・行ってるよ。すぐ、戻っちゃうから・・かな?」
「そう。だったら、お昼どこで食べてるの?教室にも居ないんじゃない?」
「居るよ・・・ヤダな・・・それより、お茶入ったよ!」
「ああ。ありがとう。」

所在の事を深く追及されないように、どうにか話題をそらした。
「それより、カバンありがとうね。」
「ああ。でも、ありがとうって相変わらず言い過ぎ!聞き飽きたって言ってるけど?」
「う・うん。ごめん!」
「ごめんも!」
「もう!めんどくさいな!仕方ないよ。ありがとうは、ありがとうだし!ごめんは、やっぱりごめんなの!」
「クスッ。変な牧野!
やっぱり、この頃のあんた何か違うね。でも、言いたくなさそうだから、無理強いはしないよ。」
類を見ようとしないつくしに視線を向けながら、入れてもらったお茶を飲んだ。
「美味しいね。牧野が入れてくれたお茶。安物のお茶だろうに!」
「褒めてくれて嬉しいけど、安物は失礼だよ花沢類。
でも、まあ・・・事実だからね、しょうがないけどさ!」
そう言って顔を見合わせた2人。
「「プッ…」」「「クスッ・・・ハハハハハッ!」」
久し振りに笑い合った。つくしは、改めて目の前に居る花沢類の顔を見つめて思う。
『ホント綺麗だな!顔も髪も、それに手も!』
貧乏を絵に描いたような部屋に居ても、優雅な雰囲気が類の回りにはある。

「ねえ!花沢類。
人って本当に知識を高めれば、持って生まれた物が大した事なくても、変わる事はホントに出来るの?」
真面目な顔で聞くつくしに類が答える。
「幾らでも変われるよ!その人にその気さえあれば!」
類は、つくしが司との事で、何かを考えているのだと云う事だけは感じた。でも、あえてその先は追及しないで話を止める。なぜなら、類自身が聞きたくなかったからだ。

本当は、今日の昼の包んだままの物は、自分に持って来てくれた物なのか?と聞きたかった。
『どうして直ぐ、いなくなったのか?』と『どこに行っていたのか?』
聞きたい事は沢山あった。でも、聞けない自分も居た。所詮つくしは、司の恋人なんだから。それが頭を過る。

「牧野!言う機会がなくて、遅くなったけど・・俺、夏休み少し前から、しばらくの間フランスに行く事になったんだ。」
「エッ!ずっと?」
「うん、夏休みの間だけね!寂しい?」
「そ・そりゃあ…寂しいよ!でも・・なんで?」
「寂しいなら、いっそ一緒に行く?」
「い・いけないよ。バイトだってあるし・・・」
「そう、じゃあしょうがないね。」
「もう、初めから気がないくせに行くか?なんて、からかうんだから・・・花沢類もやってくれるよね!」
「からかってないよ!本気だよ!!」
真顔になりつくしを見る類の顔に、つくしは鼓動が速くなり瞬きが多くなった。
「牧野・・・俺・・・」
「もう・・ハハッ!変なのはあたしって言ってたけど、変なのは花沢類だよ!待ちくたびれて寝ぼけてるんでしょ?」
「牧野!・・・・・俺もう帰るよ!」
「花沢類!」
顔色を変え類は部屋を出て行った。つくしは、ドアの前で類の締めた扉の音が、頭と胸の中にズシリと残る何かを感じずにはいられなかった。
「なに?」
まだ、その時には、訳のわからない何かで、つくしは、ボンヤリ佇んだ。
そして、結局、フランスに行く理由さえも聞けないままに・・・・・


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